神戸大学国際人間科学部
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ペアトレ教室について
ペアレントトレーニング(ペアトレ)は、子どもの行動に影響を与えることを目的に親に対してなされる訓練であり、子どもの行動変容と親子関係の改善をねらいとして実施されます (日本認知・行動療法学会, 2019)。子どもの怒りに対するペアトレ教室 (PT-Anger: Parent Training for Anger in Children) では、肯定的養育行動の増加や否定的養育行動の減少を通じて、子どもの怒りの問題や反抗挑発症の改善を目指します。PT-Angerの開発には、日本ペアレントトレーニング研究会が公開している基本プラットフォームに基づくプログラム (JDDnet, 2019)、および、反抗挑発症を有する子どもの親に対するペアレントトレーニングプログラム (Barkley, 2013; Barkley & Robin, 2014) を参考にしています。PT-Angerは集団形式(または、個別形式)で実施するプログラムであり、全8回から構成されています(下図)。
反抗挑発症は、子どもや青年期に見られる行動上の問題の一つで、主に大人や権威に対して持続的に反抗的・挑戦的・敵意的な態度を示すことが特徴です。日常的にイライラしたり、かんしゃくを起こしたり、指示に従わなかったり、意図的に他人を困らせるような言動が見られることがあります。これらの行動は一時的な反抗とは異なり、比較的長期にわたって継続し、家庭・学校・友人関係など複数の場面で問題となることがあります。反抗挑発症の代表的な心理社会的支援としては、子どもの関わる親や保護者が適切な対応方法を学ぶ支援(ペアレント・トレーニング)や、子ども自身への感情コントロールや問題解決スキルの支援(認知行動療法)などがあります。

ペアトレ教室では、子どもたちの怒りの問題や反抗的な行動に対処するために、様々な基本的な養育スキルの獲得を目指しています(下図)。前半では、行動の3分類、行動の機能、について学んだ上で、増やしたい行動(好ましい行動)に対する養育スキルとして、親子で過ごすスペシャルタイム、年齢に応じたほめ方や認め方、ご褒美の工夫(トークンエコノミー)、などについて学びます。後半では、減らしたい行動(好ましくない行動)やなくしたい行動(許しがたい行動)に対する養育スキルとして、環境調整、注目の外し方、予告や指示の出し方、警告や制限の与え方(レスポンスコスト、タイムアウト)、などについて学びます。各セッションでは、個人での活動やグループで議論を通じて、基本的な養育スキルの獲得を目指します。さらに、ホームワークが設定され、学んだ養育スキルを実際の場面で実践しながら、それぞれの養育スキルを習得していきます。

これまでの研究において、親の養育行動尺度の開発 (岸田・石川, 2023)、パイロット試験 (岸田ら, 2024)、3カ月のフォローアップ効果の検討 (岸田ら, 未発表) などを実施してきました。パイロット試験では、反抗挑発症を有する小学3年生から中学1年生の児童青年12名の保護者(母親)に対してペアトレ教室を実施しました。その結果(下図)、プログラムの3ヵ月フォローアップにおいて、反抗挑発症の生活困難度や反抗挑発症状が改善することが示唆されました。攻撃行動と易怒性については、有意な結果は示されなかったものの、3カ月フォローアップにおいて小さいから中程度の効果が示唆されました。次に、親の養育行動については、叱責や体罰などの否定的養育行動には有意な変化は示されなかったものの、3ヵ月フォローアップにおいて、肯定的注目(ほめること)や自律性の尊重などの肯定的養育行動が有意に改善することが示されました。親の抑うつ症状についても、有意な結果は示されなかったものの、プログラム実施後と3ヵ月フォローアップにおいて、小さいから中程度の効果が示唆されました。





ペアトレ教室に関する介入研究、および、子どもの怒りの問題、反抗挑発症状、親の養育行動に関する基礎研究などの研究成果につきまして、以下の参考文献をご参照ください。
【参考文献】
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福山 裕三郎・岸田 広平 (2025). 子どもの攻撃行動とCallous-Unemotional (CU) 特性の関連に対する親の養育行動の調整効果. 学校メンタルヘルス.
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岸田 広平・福山 裕三郎 (2025). 本邦の児童生徒における暴力行為といじめに関する親評定によるオンライン調査 . 学校メンタルヘルス.
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Kohei Kishida, Masami Tsuda, Shin-ichi Ishikawa (2025). Psychometric Properties of the Japanese Version of the Disruptive Behavior Disorders Rating Scale Reported by Parents. International Journal for the Advancement of Counselling.
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岸田 広平・福山 裕三郎・北村 実玲奈・神岡 凌大・佐藤寛 (2024). 子どもの反抗挑発症や怒りの問題に対するペアトレント・トレーニングの実施可能性と有効性の検討. 日本学校メンタルヘルス学会第29回大会(ポスター発表).
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岸田 広平・津田 征海・石川 信一 (2023). 親の養育行動尺度の開発および信頼性・妥当性の検討. 第23回日本認知療法・認知行動療法学会(ポスター発表).
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Kishida, K., Tsuda, M., Takahashi, F., & Ishikawa, S. (2022). Irritability and mental health profiles among children and adolescents: A result of latent profile analysis. Journal of Affective Disorders, 300, 76-83.