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ここチャレ教室について

 ここチャレ教室(こころについて困っていることにチャレンジする教室)は、子どもの怒りの問題や反抗挑発症に対する認知行動療法プログラムです (CBT-Anger, Cognitive behavioral therapy program for anger and emotional problems in children and adolescents: 岸田他, 2024)。ここチャレ教室では、心理教育、認知再構成法、問題解決スキルといった認知行動療法に基づく技法を用いて、怒りに特徴的な認知や行動の変容を通じて、怒りの問題や反抗挑発症の改善を目指します。個別形式で実施するプログラムであり、全10回から構成されています(下図)。

 反抗挑発症は、子どもや青年期に見られる行動上の問題の一つで、主に大人や権威に対して持続的に反抗的・挑戦的・敵意的な態度を示すことが特徴です。日常的にかんしゃくを起こしたり、指示に従わなかったり、意図的に他人を困らせるような言動が見られることがあります。これらの行動は一時的な反抗とは異なり、比較的長期にわたって継続し、家庭・学校・友人関係など複数の場面で問題となることがあります。反抗挑発症の代表的な心理社会的支援としては、子どもの関わる親や保護者が適切な対応方法を学ぶ支援(ペアレント・トレーニング)や、子ども自身への感情コントロールや問題解決スキルの支援(認知行動療法)などがあります。

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 ここチャレ教室では、認知行動療法の考え方に基づいて、子どもたちの不適応的な思考パターンや行動パターンの改善を目指します。不適応的な思考パターンについては、不安の高い子ども、うつの高いこども、怒りの高い子どもにおいて、それぞれ特徴的な認知的プロセスがあることが知られています(下図)。怒りの高い子どもは、相手の意図を敵意的に解釈する敵意帰属バイアスや、それによって生み出される他者に対する否定的自動思考(他者の否定)が高いことが示されています (Kishida et al., 2022)。ここチャレ教室では、子どもたちの不適応的な思考パターンに対する理解を促すために、おじゃまモンスターというキャラクターを用いています(下図)。それぞれの子どもにおいて特徴的な不適応的な認知パターンを同定し、認知的技法や行動的技法を用いて、柔軟な思考パターンの獲得を目指します。その後、社会的情報処理モデル(下図)に基づいて、適応的な行動パターンを習得するために、問題解決のためのプロセスを体系的に学習します。怒りの高い子どもは、過剰な攻撃行動や回避行動といった不適応的な行動パターンが習慣化していることが多くあります。そこで、怒りを喚起するような対人場面での様々な行動パターンを案出できるようにし、適切な行動パターンを選択する方法を学びます。さらに、セッション内でのロールプレイを通して、適応的な行動パターンを練習します。その後、セッション外での怒り喚起場面での適応的行動パータンの習得へと進んでいきます。

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 これまでの研究において、イライラの問題を持つ事例に対する認知行動療法プログラムの実施 (岸田・石川, 2019)、怒りに特徴的な認知的変数の測定指標の開発 (Kishida et al., 2022)、パイロット試験を用いたここチャレ教室の有効性の検討 (岸田他, 2024) などを実施してきました。パイロット試験においては、怒りの問題や反抗挑発症を有する小学4年生から中学1年生の子ども7名対象にして、プログラムの有効性を検討しました (岸田他, 2024)。その結果、プログラム実施の3ヵ月フォローアップにおいて、反抗挑発症の生活困難度が改善することが示されました。次に、親評定の反抗挑発症状は、3ヵ月フォローアップにおいて改善する傾向が示されました。加えて、親評定の易怒性(怒りやイライラの問題)についても改善する傾向が示されました。さらに、敵意帰属バイアス(怒りに特徴的な認知の誤り)の変化は確認されなかったものの、プログラム実施後から3ヵ月フォローアップにおいて、他者の否定(怒りに特徴的な自動思考)の減少が確認されました(下図)。

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 ここチャレ教室に関する介入研究、および、子どもの怒りに関する基礎研究などの研究成果につきまして、以下の参考文献をご参照ください。

【参考文献】

  1. 岸田 広平・福山 裕三郎 (2025). 本邦の児童生徒における暴力行為といじめに関する親評定によるオンライン調査 . 学校メンタルヘルス.

  2. Kohei Kishida, Masami Tsuda, Shin-ichi Ishikawa (2025). Psychometric Properties of the Japanese Version of the Disruptive Behavior Disorders Rating Scale Reported by Parents. International Journal for the Advancement of Counselling.

  3. 岸田 広平・佐藤 寛・石川 信一 (2024). 子どもの反抗挑発症に対する認知行動療法のProof of concept試験 ―怒りに特徴的な認知の変容可能性―. 認知療法研究.

  4. Kishida, K., Takebe, M., Kuribayashi, C., Tanabe, Y., & Ishikawa, S. (2022). Development of the Anger Children’s Cognitive Error Scale and the Anger Children’s Automatic Thought Scale. Behavioural and Cognitive Psychotherapy, 50, 481-492.

  5. Kishida, K., Tsuda, M., Takahashi, F., & Ishikawa, S. (2022). Irritability and mental health profiles among children and adolescents: A result of latent profile analysis. Journal of Affective Disorders, 300, 76-83.

  6. 岸田 広平・石川 信一 (2019). 青年の怒りに対する認知行動療法-イライラを主訴とする中学生に対する実践-. 認知療法研究, 12, 130-140.

  7. 岸田 広平 (2019). 子どもの怒りに対する認知の歪みモデルに関する基礎研究. ストレス科学研究, 34, 81-82.

  8. 日本認知・行動療法学会 (2019). 認知行動療法事典. 丸善出版. (分担執筆 第7章 教育分野の認知行動療法 子どもの怒り・攻撃への支援)

  9. 武部 匡也・岸田 広平・佐藤 美幸・高橋 史・佐藤 寛. (2017). 子ども用怒り感情尺度の作成と信頼性・妥当性の検討. 行動療法研究, 43, 169-179.

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